1本のポール

ある寒い日の冬のお話。
あれは忘れもしない、6年前の冬…
当時サラリーマンだった僕は毎日、いや毎時間ノルマに追われていた。
会社がとても厳しくノルマ必達しないと、事務所に戻ってこれない。
その日は午前中から会社から60キロもある、北九州市に営業に出かけていた。
ところが正午を回ったころ、僕の体が急に火照り出した。
そう…
熱が出てきたのだ。
そして時間が経てば立つほど僕の体温がどんどん上がりだした。
感覚でいうとおそらく39度は越えている感じ。
場所は飯塚。
限界だ…
一応事務所に電話しよう、帰社したいと。
しかし、社長からの指示は「1件受注するまで帰るな」とのこと。
その瞬間目まいがした。受注見込みもない。このままでは帰れない。どうしようか…
そういえばトランクには緑色の「のぼり用の竿」が一本乗っている。
それを見ながら、
「そうか…。これ1本売っても受注は受注。とにかく350円の竿を売ろう!」
その瞬間から蘇った気分になった。
350円の竿なら売れると思ったからだ。楽勝!
足取りも軽く得意の飛び込みを行う。
しかし…世の中は無常だった。
「すいません、○○という会社の山本と申しますがこののぼり用竿買っていただけませんか?」
「いらん。いらん。」
誰も買ってくれない。話も聞いてくれない。
当たり前だ。
のぼり用の竿持って「買ってくれ」なんて怪しすぎるにも程がある。
そうこうしてるうちに見知らぬ地で十数軒程玉砕しただろうか。
熱はまだ39度ほどありそうだ…
本当に辛い。あたりはどんどん暗くなる。
体の限界がそこまで来てる。
そして車で1時間ほど仮眠した。
いや、仮眠したと言うより限界で倒れた。
しかし、あまりの悪寒に眠ることもできない。
こんなにきついことがあるのかと思った。
仕事は世の中にたくさんある。よく頑張った!誰も根性無しとは言わないだろう。
もう仕事辞めて家に帰ろう…と思ったところ、30M先の左手に一軒の古びたうどん屋があった。
「最後にあそこに寄ってみよう。ダメならもう辞めよう。最後の営業だ!」
車を降り疲れた体と折れた心でうどん屋の入口まで辿りついた。
「失礼します。○○という会社の山本と申しますが、この竿買っていただけないですか?」
中から初老の女性が出てきた。
「…」
無言だ。そりゃそうだよな。いきなり疲れた顔した営業マンが竿買ってくれなんてやはり確実に怪しい…。宝石商の方がまだマシか…
「これ売らないと僕、帰れないんです。ノルマがあって…」
これ以上言葉が出てこない。
「いくら?」
「350円です」
「…」
そのままどれだけの時間が流れただろうか。
帰ろうかな…
その矢先…
笑顔で「いいよ。」と。
えっ?本当?
その瞬間泣きそうになった。泣いていたかもしれないが覚えていない。よくわからないんだ。熱のせいなのか、喜びなのか、安堵なのかわからない。しかし、そんな事はどうでもいい…。
「いいよ。」の3文字だけで。
レジから350円を取り出すおばあちゃん。
手のひらに百円玉3つ、10円玉5つを乗せてくれた。
お金を受け取った瞬間、とても重たい350円。何よりもありがたい350円。そして、世界で一番価値のある350円。
しかし、問題が!
領収書が無いことに気づいた。
領収書が無いとお金はふつうくれない。
さてどうしようかと困り果てる僕を見て、おばあちゃんが一言。
「領収書送っといて」
そして僕はその汚い、僕の手あかが一杯ついた、緑色の竿を渡した。
おばあちゃんは竿を片手に奥に引っ込んだ。その背中は何かを語りかけてるようだった。
「あんた、頑張りなさいよ!」って。
本当に「ありがとう。ありがとう。」
心の中で何度も何度も叫んだ…
そして、何とか車を運転して家に帰ったら、40.3度も熱があった。ビックリです…。
そして、
後日、封筒にお礼を書き領収書を送った。
何を書いたかは「秘密」です鍵
それから僕はそのうどん屋には一度も行ったことが無い。
行けば涙が出るから…
これはある寒い冬の日にあった本当のお話。
そしてとても暖かい本当のお話…
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